三郎さん「老兵Macintosh」 - Appleトータルサポート   
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三郎さん「老兵Macintosh」

何ダ、コリャ!

 

そのiMacの登場は私にとって衝撃的だった。まずはそれまで見たこともない緑色の半透明の筐体が度肝を抜いた。即購入したのは秀逸なデザインだけではない。何よりもそのコンピューターを憧れの彼女が使っていたからに他ならない。イタリアの美人女優のように目鼻立ちがはっきりした顔。


「これ、映像や画像処理が速いのよね」


と、画面を注視するときクールに瞬く長い睫毛、スケルトンのマウスを操る細く白い指、艶やかな口紅......それらはいかにもiMacのおしゃれなデザインに似合っていた。


「これ、どうやったらいいんだ?」


と、コンピューター初心者の私は頻繁に彼女に質問した。本当は分かっているごく初歩的なことまでも。すると、彼女は立ち上がり、わざわざ私の机までやってきて、私と頬を寄せ合うようにして丁寧に説明してくれたのだが、一言こう釘を刺した。


「見栄えだけで買うからこういうことになるのよ。マックはWindowsとちょっと違うのよ。その大量のFDD、どう使うつもり?」

 

びっしりケースに詰め込まれたFDDを見ながら、iMacにFDDが搭載されていないことに無頓着であった私は、彼女への下心を見透かされたようで少々傷ついたものだ。

今でこそFDDなど時代から忘れられた骨董品であるが、当時は持ち運びが手軽な、すこぶる重宝な記録媒体だった。彼女の一言が悔しくもあり、また、FDDを使えないことには仕事にならないこともあって、私はMacでWindowsを実現するためのテクニックを勉強し、FDDが使える職場のコンピューターと行ったり来たりした。その甲斐あって、私のIT技術は格段に進歩し、彼女にこう言われるまでになった。


「マウスを鼠と言ってたあなたも、やっと一人前ね」


その彼女がアメリカ人と結婚してニューヨークに渡ると聞いたとき、何と鮮やかな転身をする娘かと私は惚れ惚れしたのだった。それから十年余り、久しぶりに帰国した彼女とお茶を飲む。 「小生意気な子でしょう」と笑いながら、彼女が卓上に差し出したのは子供の写真だった。


「すっかりアメリカンだね」

 

写真の中でポーズを取る男の子が彼女の雰囲気とそっくりだと思った。


「三歳の誕生日に写真スタジオで撮ったのよ。子供を可愛く見せる日本と違って、アメリカではこういうポーズがお決まりなんだって」

 

右手をソファーの背もたれに置き、左手は腰に当てて首を傾けたポーズは精一杯背伸びして小さなジェントルマン気どりだった。その子の真っ黒な瞳――私は『小生意気』という一言に、異国で生きる一人娘に対する彼女の愛情の全てが込められているような気がした。


「今どきの子供はすごいわね。この子、iPadを自在に操るのよ。化け物みたい。それに好奇心が旺盛で、賢いかもしれないわ。アップルのマークを見て、『ママ、どうしてこのリンゴは欠けてるの?』と質問するのよ」

 

言うまでもなく、リンゴはアダムとイブがエデンの園で食べた知恵の実に由来しているわけだが、リンゴを囓った跡の英語biteと単位を表すbyteを掛けたこと、Macintoshがカナダのオンタリオ原産のリンゴであることもつい最近まで私は知らなかった。


......実は私の家の庭の片隅にはiMacの前に買って、使いこなせないままWindowsに席を譲ったMacintoshの残骸がある。私には食べられなかったアップルの実だ。



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